春日山

【生命は (吉野 弘)】

生命は

自分自身だけでは完結できないように

つくられているらしい

花もめしべとおしべが揃っているだけでは

不充分で虫や風が訪れて

めしべとおしべを仲立ちする

生命は

その中に欠如を抱きそれを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分他者の総和

しかし互いに欠如を満たすなどとは

知りもせず知らされもせず

ばらまかれている者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思うことさえ許されている間柄

そのように 世界がゆるやかに構成されているのは なぜ?

花が咲いているすぐ近くまで

虻(あぶ)の姿をした他者が

光をまとって飛んできている

私も あるとき

誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない 

【微妙で絶妙なバランスの中で】

学期末や長期休業に際してしつこいようですが、吉野弘さんの「生命は」という誌をこの紙面で紹介します。

美晴幼稚園は多様な子どもが共に生活し学び合っている幼稚園です。加えて、一言でいってしまえば「子どもが子どもらしく過ごせる」ことを大切にしています。しかし、子どもが多様であるだけに、微妙なバランスを探り特に心をくだきながら絶妙にバランスを維持することが求められます。

そのバランスの中で1年、2年そして3年過ごす過程では、様々な葛藤(かっとう)を経験します。それは、モノや自然とのかかわり、あそび、人間関係などなど様々な場面で自分の思い通りにならない「不安」や「疑問」に出会うことです。幼児期の子どもは各々が未熟で欠如だらけの存在ゆえ互いに不安や疑問を与え感じます。

その幼児期の「葛藤」経験は、子どもの成長・発達にはとても重要で不可欠のものです。その事がこの一編の詩に凝縮されています。

【「美晴のキセキ」の意味】

美晴幼稚園のブログのタイトルをご存じでしょうか?そう「美晴のキセキ」です。

キセキには二つの意味があります。

ひとつは「奇跡」です。命を授かった私たちがバランスをはかりながら、互いに尊重し合い相互理解の中で、時と場を共にして過ごせること。

もうひとつは「軌跡」です。子どもが発達するには全ての条件がそろわなければなりません。その条件がそろうには一定の長い時間がかかります。その時間とは数週間とか数カ月の単位ではありません。

一年とか数年という間尺の時間をかけて条件がそろい、次の発達段階へと進みます。美晴はその進み具合が一人一人違う事を尊重しています。冬休み中、保護者の皆さんには今一度その意味を考えてほしいと念願します。

春日山(かすがやま) 平成26年度 第20号 ’14/12/19 から

春日山は不定期発行の園長便りです。