風に立つライオン

突然の訃報が届いたのは 8月6日 美晴幼稚園が夏季保育一日目 全国幼児教育研究大会の公開保育をしていて 私はその教員免許状更新講習の講師をしている最中のことでした。

幼稚園で何かあったのかと心配していた私は 何人かの園長からの着信に安堵して講習を終えてから返信してみると 現 北見市長で 北見さくら幼稚園の園長をされていた櫻田真人先生が急逝された知らせでした。

櫻田先生は私より一つ年上で 私が25年前に幼稚園で仕事をさせていただいて以来親交があり 時にはあたたかくご指導いただき 時には激しく意見を戦わせていただいた先輩です。

私が北海道私立幼稚園協会で研究委員長として研究研修体制を大きく変革しようとしていた時 理事会などで北見支部長でいらした櫻田先生と激しく議論を戦わせたことがありました。櫻田先生は地方の実情を理解されている立場から 地方支部が3支部合同で持ち回りで教研大会を自主運営するブロック化は各支部の負担が大きいうえ 全道の私立幼稚園の仲間が一同に会する機会がなくなる と主張されて譲りませんでした。

同様の意見が他にもある中で 私は委員会での議論を尊重し 全道あまねく 研究研修体制を堅持するためには 厳しくとも地方の自立性が必要であるとの信念を貫いて 半ば強引に改革を進め現在に至っています。

櫻田先生が私情ではなく 地方の立場からまっすぐに異議を唱えられた ということと 本当は誰よりも私たちの思いを深く理解されていたことは 地元で毎月園長会を設け 地域の諸課題を各園の私利私欲をこえて話し合われている中心におられたこと そしてなによりも 北見支部が主催されているブロック教研大会が ポスター発表に先進的に取り組まれるなど北海道で最も内容が充実した学び合いの場になっていることで明らかです。

(そういえば その園長会に認定こども園制度を含めて 子どもを中心とした今後の保育改革をテーマに わだかまりなく私を講師としてお招きいただき 地元の名物となった 塩焼きそばを一緒に食べたこともありましたね。)

その後 私は私立幼稚園団体の責任者として札幌市の教育委員会に数度にわたって裏切られたり こども未来局を含めた行政の 子どもの消息を無視し将来展望が欠落した仕事ぶりと 私立幼稚園団体の仲間の役員と事務局の短略的な動きに辟易して 恥ずかしい話しですが 尻をまくるように 私立幼稚園団体の仕事から身をひきました。

北見市長に当選され 北海道私立幼稚園協会の理事を退任された時 私に「東先生がひかれてはいけなかったのに…。リーダーとして牽引しなくてはいけないのに…。」と涙をためられて語りかけてくださった櫻田先生は 誰よりも私の心中を察しておられたのですね。

櫻田先生は市長になられてからは まさに「風に立つライオン」のように 大好きなふるさととその子どもたちの未来のために どんな逆風が吹こうともまっすぐにお仕事をされたことは 昨日今日のご葬儀に参列させていただいてはっきりとわかりました。

北見市は今年度からはじまった子ども子育て支援新制度で 市内の全ての幼稚園は新制度の施設型給付を受ける幼稚園に移行することができました。それは 北見市私立幼稚園連合会が積算して示した利用者負担額を市費負担で実現したことによるそうですね。

未だ多くの自治体がこの制度を理解できず 迷走している実情の中で 北見市のように施行初年度から体制が整った自治体は全国でも類例をみないでしょう。そこには櫻田市長のお働きがあったはずですし 必ず 将来にわたって北見市の幼児教育にとって大きな財産となることでしょうね。

死をもって 市政のリーダーから身をひかれた櫻田先生の心中は 私にはそのほんの一部しか計り知ることができません。しかし 櫻田先生の「賢者は批判と賞賛に動揺しない」という遺志は私の中で大切にしてゆきたいと思います。 【園長 東 重満】