「高さ」で考える園環境

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@高層マンションimagesQ3J0W4YU「高所平気症」という言葉が最近よく聞かれるようになってきました。

「高所平気症」というものは、「高さに対して怖さを持たない状態にあること」を意味しています。これは、マンションで生活する子育て世帯の増加により、幼少期から高い場所で生活していて「高所」に恐怖心を抱かない「高所平気症」の子どもが増えています。またこのことにより、東京消防庁によりますと、同庁管内で発生した乳幼児の高所からの転落事故は、平成23~25年の間に65件発生しています。そのうち、52人が重症以上と診断されているのです。今年7月にも、東京都渋谷区のマンション1階にあるコンビニへ母親が出かけている途中、そのマンションの12階で留守番をしていた女児(4)=当時=がベランダから転落死する事故が発生しました。他にも、平成26年5月には、葛飾区のマンション10階のベランダから、4歳の男児が転落して死亡しました。このケースでも、母親は兄弟に忘れ物を届けるために1階に外出しており、部屋には男児と妹だけが残っていた状況でした。

このように、ベランダからの転落事故の多くは「子どもだけが室内に残っているとき」に発生していると考えられ、専門家も「子どもは、親がいなくなった不安に耐えられず、何とかして親を探そうとする。外に親がいると分かれば、ベランダからのぞきたくなってしまう」と警告しています。

こうした状況にマスコミがしきりに騒いでいるわけです。この「高所平気症」について、ある専門家は「興味のあるものがベランダの外にあれば、どんな恐ろしい行動でも取れるのが子どもの特性だ」と、注意を促す警鐘を鳴らしています。「高所平気症」の育ってくるのは、「高層マンションの一室などで育つことで、高いところが怖くないという『高所平気症』の子どもが増えている」。と福島学院大の織田正昭教授(福祉心理学)は指摘しています。高層マンション等では「地面」が見えないため、「高さ体験」ができないことが、「高さに対する恐怖体験」などを欠如してきたのが大きな原因のようです。

この社会問題は、高層マンション等では「地面が見えない」ため、「高さ体験」ができないことに起因しているわけです。そして、この「高度平気症」は、4歳になるまでに発症し、一旦「高所平気症」になると、直しにくいものです。

そこで、こうした生育環境で育った子どもたちに、幼稚園・保育所・認定こども園などの集団保育施設においては、どう対応したらよいのか、保育環境の面から考えてみます。

子どもが地面を見ながら、その対比で「高さ体験」できるには、ある程度の高さを持った環境物を考えればよいということになります。その「高さ」から、子どもが日常の自分の背丈とは違う体験をするわけなので、大げさにいえば、新しい「世界観」の獲得を行うとでもいえましょう。つまり、違ったアングル(角度)から世界を見るのです。これにより、日常の子どもの思考においても、「視野の違うアングル(角度)でものごとを考えるようになる」という願ってもいなかった、素晴らしい副産物(「自分独自の新しい創造的な新規の考え方))もついてくるようです。ちょうど、幼児教育の父である倉橋惣三が、「できるだけ自然のままで、草の多い丘があり、平地があり、木陰があり、くぼ地があり、段々があって、幼児が転んだり、走ったり、自由に遊ぶことができるようなところが良い。」「夏には木陰となり、冬は日光が十分当たるように落葉樹を植えると良い。」「幼児にはできるだけ自然の美しさに親しませたい。それには日当たりの良い運動場の一部を花畑、菜園として野菜や花を作り、それを愛育するように仕向ける」と、園庭に起伏を設けて「丘(高い場所)」にまで言及しています。当時は、「高層マンション」はなく、現在の状況をうかがい知る術はなかったわけですから、倉橋惣三としては、「環境に盛り込む教育意図」の話をしているわけですが、直感的に「園庭」が平面ではなく。「高さと起伏」ということを述べていたわけです。現代の幼児教育・保育に生きる私たちとしては、いまはもう亡き倉橋惣三の教育・保育精神を生かしつつも、さらなる「教育・保育意図」を持って、子どもの保育環境を考える必要があります。

「高さ」のある遊具といえば、「ジャングルジム」や「グローブジャングル」などの固定遊具を考えがちになりますが、「ブランコ」や「シーソー」といったものも瞬間的にではありますが、高さの違った世界を提供してくれます。そして、「めまい」や「抑揚感」も味わわせてくれます。でも、集団保育的に見れば、「順番を待つ」という好ましい側面があるにもかかわらず、逆に「人間関係」に「ボス」「従者」といった良くない人間関係が現れてくるものであることを心に留めて保言にあたる必要がありましょう。そうした「固定遊具」以外に、倉橋惣三も述べていた「土山」なども有効になるでしょう。子どもの背丈ほどもあれば、子どもの視点は、本来の「高さ」の2倍ほどにもなり、「高さ感覚」を育成するのは可能です。また、「地面」に足をつけて活動できるわけなので、最初に述べた「高度平気症」を防ぎ、「高さ体験」できる素晴らしい遊具であるといえましょう。そして何より、人まねでない「自分独自の新しい創造的な新規の考え方」を身に付けることになります。