12月2022

春日山の続き

生命は (吉野 弘)

生命は

自分自身だけでは完結できないように

つくられているらしい

花も

めしべとおしべが揃っているだけでは

不充分で

虫や風が訪れて

めしべとおしべを仲立ちする

生命は

その中に欠如を抱き

それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分他者の総和

しかし

互いに欠如を満たすなどとは

知りもせず

知らされもせず

ばらまかれている者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思うことさえ許されている間柄

そのように 

世界がゆるやかに構成されているのは 

なぜ?

 

花が咲いている

すぐ近くまで

虻(あぶ)の姿をした他者が

光をまとって飛んできている

 

私も あるとき

誰かのための虻だったろう

 

あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない

 

毎年学期末に春日山で吉野弘さんの「生命は」という詩を必ず掲載します。どんどん窮屈になっているようにしか見えない子ども達の育つ道程、子育て環境、そして近頃の社会のあり様を含めた子どもを取り巻く状況を思うとき、この詩の意味が胸に深くしみます。

「…世界は多分 他者の総和…」依存や支え合い、「お互い様」の関係がそれぞれの生活を豊かにし互いの関係に潤いを与えてくれるのでしょう。その事が、今どきの子育てにも教育にも社会にも欠如していることだと私は考えます。

ここ数年、私たちが住む日本では地震や豪雨や雪害による災害が頻発しています。世界では新型コロナウイルス感染症…そして紛争や貧困。その度に、みんなが関係者の悲しみや困難に寄り添い再起する姿に触れることになります。

「寛容さ」と「謙虚さ」

生命は不完全さを互いに補い合い、全体の総和の中で成立するもの…。吉野弘さんの「生命は」という詩は、現代の風潮の対極にあるのではなく、その悩ましさをも包含する大きな寛容さと謙虚さがあります。冬休み中、いつもにも増して子どもと共にする時間がふえることと思いますが、その中で、必ず新しい気づきや発見があるはずです。(それは親にとって良い面も悪い面も…両面あるはずですが…)。もし、今まで自分が見過ごしていた子どもの姿があった時には、後ろ向きに捉えていちいち指摘し叱るのではなく、そこを仲間や保育者に補われ支えられて今の我が子の姿があることに思いを寄せてほしいです。そんな一面はどの子どもも必ず持ち合わせていますから…。

春日山の続きー2

動詞「ぶつかる」 (吉野 弘)

ある朝

テレビの画面に

映し出された一人の娘さん

日本で最初の電話交換手

 

その目は

外界を吸収できず

光を 明るく反映していた

何年か前に失明したという その目は

 

司会者が 通勤ぶりを紹介した

「出勤第一日目だけ お母さんに付添ってもらい 

 そのあとは

 ずっと一人で通勤してらっしゃるそうです」

 

「お勤めを始められて 今日で一ヶ月

 すしずめ電車で片道小一時間……」

そして聞いた

「朝夕の通勤は大変でしょう」

 

彼女が答えた

「ええ 大変は大変ですけれど 

 あっちこっちに ぶつかりながら歩きますから、

 なんとか……」

「ぶつかりながら……ですか?」と司会者

彼女は ほほえんだ

「ぶつかるものがあると

 かえって安心なのです」

 

目の見える私は

ぶつからずに歩く

人や物を

避けるべき障害として

 

盲人の彼女は

ぶつかりながら歩く

ぶつかってくる人や物を

世界から差しのべられる荒っぽい好意として

 

路上のゴミ箱や

ボルトの突き出ているガードレールや

身体を乱暴にこすって過ぎるバッグや

坐りの悪い敷石や焦々(いらいら)した車の警笛

 

それは むしろ

彼女を生き生きと緊張させるもの

したしい障害

存在の肌ざわり

 

ぶつかってくるものすべてに

自分を打ち当て

火打ち石のように爽やかに発火しながら

歩いてゆく彼女

 

人と物との間を

しめったマッチ棒みたいに

一度も発火せず

ただ 通り抜けてきた私

 

世界を避けることしか知らなかった私の

鼻先に

不意にあらわれて

したたかにぶつかってきた彼女

 

避けようもなく

もんどり打って尻もちついた私に

彼女は ささやいてくれたのだ

ぶつかりかた 世界の所有術を

 

動詞「ぶつかる」が

そこに いた

娘さんの姿をして

ほほえんで

 

彼女のまわりには

物たちが ひしめいていた

彼女の目配せ一つですぐにでも唱い出しそうな

したしい聖歌隊のように

 

子どもたちも ”動詞「ぶつかる」”   存在であってほしい

美晴の子どもたちにも動詞「ぶつかる」存在であってほしいと願います。他者(ヒト モノ 自然 出来事)と非接触 あるいは一定の距離をとって過ごせたり 過ごすことを奨励された中で 育ちつつある子どもたちの近未来(小・中学校)も 今まで以上に 「ぶつかり合い」は減ってゆく状況は想像に難くありません。

子ども時代に 何事も無難にやり過ごすのではなく 自然にぶつかり合える関係性で育つことは ぶつかる相手を忌避するのではなく ぶつかる相手の存在を認め自分の存在の確かさを実感することに…。

幼い頃のこのような実体験が 難しく困難な時代を生きぬかなければならないこの子どもたちにとって 生涯に渡る財産になると考えるのは 私だけではないと思うのですがいかがでしょう。

良い冬休みと新年を

冬期休業中も預かり保育など幼稚園で子どもたちと過ごす機会もありますが、通常の保育は約1カ月お休みになります。冬季間は新型コロナウイルスや季節性のいフルエンザなどの感染に留意しましょう。預かり保育の利用の有無にかかわらず、これまでと同じように早めにご家庭と幼稚園で情報共有し対処してゆきたいと考えます。

園がお休みでも緊急の連絡や、お手伝いすることがありましたら何時でも遠慮なく

園長携帯:090-8899-3123へお知らせください。

【園長 東 重満】

 

 

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