インプリンティング?

 インプリンティング(刷り込み)というのは、特に、鳥類が生後○○時間から○○時間以内に見た動く物体を自分の親と思い込んでしまう習性を言います。このことを知ったのは、自分が幼児教育界に入ってまなしのことだったように思います。岩波映画研究所が出していたごく短い記録映画の中でした。

 大きなショックを受けまして、その後も、インプリンティングという言葉にはとても敏感だったように思います。さりとて、深く勉強しようとも思わず、相当以上の月日が流れたのでした。

 この間、児童文学書の最高峰に近いアンデルセン著の“みにくいあひるのこ”などで展開される物語の世界とノーベル賞を受賞したローレンツ博士がいうインプリンティングとの狭間で、何度か格闘したものでした。残念ながら、今も結論が出ていません。

 さて、夏期保育が始まった2日目の降園時刻、園庭を歩く一人の3歳児の女の子がいました。自分が丹精を込めて作った風船がふとしたはずみで自分の手から離れてしまいました。微風が吹いていましたので、その風船は地面の上をとんとんと跳びはねているように見えました。

 その女の子は、風船を取り戻そうとするように見えるのですが、手に取ろうとはしません。正確に言えば、手に取ろうとはするのですが、最後には、手にとらないのです。実に微妙です。

 これをじっと見ていた私は、ひょっとしたら、この子は自分が作った風船の作品に(動物的)命を感じたのではないかと思ったのでした。こう思った理由は、この頃の子どもは、チョウチョウやトンボ、カブトムシに触れない子どもが増えています。彼女はこれらの小さな昆虫と同じように思ったのではないでしょうか。

 この推論が正しいかどうかは“神のみぞ知る”というところでしょうが、自分としては、子どもたちの“…かもしれない”という心の動きを大切にしていますので、とてもすばらしい瞬間に出会えて幸せでした。  自称 保育バカ